2026年4月1日、「高次脳機能障害者支援法」が正式に施行されました。これは、脳卒中・交通事故・脳炎などで脳に損傷を受けた後、記憶・注意・コミュニケーションなどに障害が残った方(高次脳機能障害者)と、そのご家族を支援するための日本初の専門法律です。
全国に推定約23万人いるとされる高次脳機能障害者は、これまで「どこに相談すればよいかわからない」「医療・福祉の間で支援がバラバラ」という状況が長年続いていました。この新法により、都道府県に支援センターの設置が義務化され、医療・福祉・就労・教育にわたる一貫した支援が受けやすくなります。
この記事では、新法の内容・支援センターで受けられるサービス・相談窓口への連絡方法をわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 高次脳機能障害者支援法とはどんな法律か
- 施行によって何が変わるか
- 支援センターで受けられるサービス
- 相談窓口・連絡先
- 障害年金・障害手帳など既存制度との組み合わせ
高次脳機能障害とは?まず基本を確認しましょう
「高次脳機能障害」とは、病気や事故で脳が傷ついた後に、次のような症状が残る状態のことです。
- 記憶障害:新しいことを覚えられない、昨日のことを忘れてしまう
- 注意障害:ひとつのことに集中できない、ちょっとしたミスが増える
- 遂行機能障害:計画を立てて行動するのが難しくなる
- 社会的行動障害:感情のコントロールが難しく、急に怒ったり、意欲がなくなったりする
- 失語・失行・失認:言葉がうまく出ない、日常の動作の仕方がわからなくなるなど
外見からは障害が見えないため、「怠けている」「わがまま」と誤解されることも少なくありません。これが当事者と家族にとって大きな精神的負担となっています。国内の推定患者数は約23万人にのぼるといわれています。
主な発症原因は以下のとおりです。
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)
- 交通事故・転倒による頭部外傷
- 脳炎・脳腫瘍の後遺症
- 低酸素脳症(心停止後など)
年齢制限はなく、子どもから高齢者まで発症する可能性があります。
高次脳機能障害者支援法の概要と主な内容
「高次脳機能障害者支援法」は2025年12月16日に国会で成立し、2026年4月1日から施行されました。議員立法による法律で、与野党の賛成を得て成立した画期的な法律です。
法律の主な内容
① 都道府県に支援センターの設置を規定
すべての都道府県に、高次脳機能障害者への専門的な支援を行う「支援センター」を設置することが定められました。これにより、全国どこでも専門的な相談が受けられる体制が整備されます。
② 医療から生活・就労まで一貫した支援
医療・リハビリ段階から、日常生活支援、社会参加支援(就労・教育など)まで、切れ目なく支援を受けられる体制を国と自治体が構築することが義務付けられました。
③ 地域支援連絡協議会の設置
患者・家族・専門家・医療・保健・福祉・教育・就労関係機関が連携する「地域支援連絡協議会」の設置が規定されました。これまでバラバラだった支援機関が、情報を共有しながら連携できるようになります。
④ 専門医療機関の確保
高次脳機能障害の診断・治療・リハビリを行う専門医療機関の確保が国・都道府県の努力義務となりました。
⑤ 普及啓発・理解促進
社会全体で高次脳機能障害への理解を深めるための啓発活動が推進されます。
支援センターで受けられる支援
都道府県の支援センターでは、主に以下の支援を受けることができます。
専門相談
医療ソーシャルワーカー・精神保健福祉士・作業療法士などの専門スタッフが相談に対応します。「症状がどんな障害に当てはまるかわからない」「どんな手帳・年金が使えるか」「仕事に復帰できるか」など、幅広い悩みに対応します。
適切なサービスへのつなぎ
支援センターが窓口となり、必要な医療・福祉・就労支援機関へのつなぎを行います。これまで「どこに相談すればよいかわからない」という状況を改善し、ワンストップで支援につながれるようになります。
家族への支援
高次脳機能障害の介護は家族への負担が非常に大きいため、家族向けの相談・支援も提供されます。家族が孤立しないよう、ピアサポートや情報共有の場も整備される予定です。
関係機関への研修・コンサルテーション
地域の支援者(ケアマネジャー・就労支援員・教師など)向けの研修を行い、地域全体の支援力を高めます。
既存制度との組み合わせ方
高次脳機能障害者支援法は既存の制度をなくすものではなく、既存制度を使いやすくするための「橋渡し」の役割を果たします。以下の制度と組み合わせて活用できます。
精神障害者保健福祉手帳
高次脳機能障害は「精神障害」に分類されるため、精神障害者保健福祉手帳の取得が可能です。手帳があると、医療費の軽減・交通機関の割引・税金の控除などが受けられます。
申請先:お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口
障害年金
障害の程度が一定以上の場合、障害基礎年金または障害厚生年金を受給できる可能性があります。初診日から1年6か月後(障害認定日)に請求できます。
申請先:年金事務所または市区町村の国民年金担当窓口
障害者総合支援法のサービス
ホームヘルプ・就労移行支援・就労継続支援・グループホームなど、さまざまなサービスが利用できます。
申請先:お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口
ハローワークの就労支援
ハローワークの専門援助部門・障害者就業・生活支援センターが高次脳機能障害の方の就労をサポートします。
申請・相談時の注意点
- 支援センターの体制は都道府県により異なります。施行直後は体制が整備中の地域もあります。まずお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に「高次脳機能障害の相談ができる窓口を教えてほしい」と問い合わせてみましょう。
- 障害手帳や障害年金の申請には専門医の診断書が必要です。神経内科・精神科・リハビリテーション科のある病院を受診しましょう。支援センターで専門医療機関を紹介してもらえます。
- 初診日の記録を大切に保管してください。障害年金の請求では初診日の証明が重要になります。受診記録・診察券・医療費の領収書などを保管しておきましょう。
- 発症・受傷から時間が経っていても相談できます。ただし、障害年金の遡及請求には時効(5年)がある場合があるため、早めに年金事務所に確認することをお勧めします。
- 家族だけで抱え込まないことが大切です。介護疲れは深刻な問題です。支援センターは本人だけでなく家族の相談も受け付けています。
よくある質問
Q1. 高次脳機能障害かどうか、自分で判断できますか?
A. 自己判断は難しいです。症状が気になる場合は、神経内科・精神科・リハビリテーション科のある病院を受診し、専門医に診てもらうことが大切です。支援センターに相談すれば、適切な医療機関を紹介してもらえます。
Q2. 支援センターへの相談は無料ですか?
A. 相談自体は無料です。ただし、支援センターの体制は都道府県により異なります。まずお住まいの市区町村窓口にお問い合わせください。
Q3. 障害者手帳を持っていないと支援を受けられませんか?
A. 手帳がなくても相談・支援を受けることはできます。ただし、障害者総合支援法のサービスを利用するには手帳または自治体の認定が必要です。まずは相談窓口に問い合わせましょう。
Q4. 事故から何年も経っていますが、今からでも相談できますか?
A. はい、相談できます。時間が経っていても支援を受けることは可能です。障害年金の遡及請求には時効(5年)がある場合があるため、早めに年金事務所にご確認ください。
Q5. 子どもが交通事故で脳に損傷を受けました。この法律は子どもにも適用されますか?
A. はい、年齢制限はありません。お子さんの場合、学校での支援も関わってきます。支援センターに相談すれば、教育機関との連携についてもサポートしてもらえます。
まとめ
2026年4月1日に施行された「高次脳機能障害者支援法」は、これまで「見えない障害」として十分な支援が届きにくかった高次脳機能障害の方々とそのご家族にとって、大きな前進となる法律です。
この法律によって:
- 都道府県に支援センターが設置され、専門的な相談ができるようになります
- 医療・福祉・就労・教育が連携した一貫した支援体制が整備されます
- 家族も含めてサポートを受けやすくなります
「もしかしたら高次脳機能障害かもしれない」と感じている方、「どこに相談すればよいかわからない」とお困りの方は、まずお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口か、都道府県の高次脳機能障害支援センターにご連絡ください。
制度を知ることは、あなたとご家族の生活を守る第一歩です。ひとりで抱え込まず、ぜひ支援を活用してください。
※ 支援センターの体制は都道府県により異なります。お住まいの市区町村窓口でご確認ください。
情報源:厚生労働省(mhlw.go.jp)
